途方に暮れるとはこの事かもしれないと赤羽は思った。生まれてから17年、初めてその言葉の意味を実感する。
 迷子の気分も初めてかもしれない。
 赤い目を瞬かせ長い溜息をついて、逡巡する事数分。赤羽に残された道は結局一つしかない。
 一緒に放り出された荷物を抱えて赤羽は歩き出した。
 マネージャーであるジュリが強引に外へ放り出すと言う方法で後押ししてくれたのだ。此処で行かねば彼女に申し訳ない、と言うか彼女が怖い。
 本当は其れ以上に彼から返ってくる答えが怖いけれど行くしかないだろう。
 怯える身体と気持ちを騙し騙し、愛する彼の下へ赤羽は歩き出した。










 駅までの道がこれほど遠いと思ったのは初めてかもしれない。行きたくない、聞きたく無いと、心が身体が言う。
 それでも『ジュリに閉め出されたから』と言う言葉を言い訳にして一歩ずつ前に進む。
 俯き、後ろ向きな気持ちで歩いていたからか、赤羽は其の存在に気付くのに少し時間がかかった。



 「赤羽さん」



 優しい声で名前を呼ばれ。勢い良く赤羽は顔を上げた。
 夢か幻か、目の前に立つ少年を凝視する。少年はそんな赤羽を見て微笑んだ。



 「セナ、君?」
 「お久しぶりです、赤羽さん」



 セナはいつもと変わらぬ様子でとことこと赤羽に近付いて来た。
 寒さのせいか、薄らと紅潮している頬を見て赤羽は眩暈がした。盲目過ぎて既に何かがおかしくなっている自分を自覚する。
 セナは赤羽の様子に全く気付かず無防備に笑った。



 「たまたまこっちの方に用事があったので、寄ってみたんですけど……擦れ違いにならなくて良かったです」
 「フー、そうなのかい。僕も会えて良かったよ」



 内心の動揺を必死で抑え、赤羽はいつも通りにセナに笑いかける。
 実の所いつも通りとは言い難い程、色の濃いサングラスの向こうで赤い目は忙しなく周囲を彷徨っているのだが。
 赤羽は視線を彷徨わせ、辺りに助けを求めるが見えるのは見慣れた通学路のみ。店どころか人も居ない、更に言うなら動物も居ない。いるのは季節はずれの虫くらいか。
 虫だ何て、話のネタにさえ出来ない(「セナ君、虫がいるよ」なんて唐突に言い出したら唯の変な人だ)
 誰かに助けを求めるどころか、逆に今伝えずに何とすると言わんばかりのシチュエーション。
 無邪気に笑うセナに躊躇うも、次の瞬間自分を強引に送り出したジュリを思い出す。



 深い深い溜息をついて、赤羽は遂に覚悟を決めた。






 「………セナ君」
 「はい」
 「君に伝えたい事があるんだ」
 「はい、何ですか?」









 #3 最早告白あるのみ
 (君が好きで好きで仕方がないんだ。僕の恋人になってくれないか?)