学校に行って直ぐ、教室で見つけた友人を捕獲。有無を言わさず友人の鞄を抱えて猛ダッシュ。
 気分はアイシールド21。今の私なら空さえ飛べる!





 学食の隅で、授業をサボって捕獲した友人に昨日の夢の話をした。
 「あー、も、ちょ聞いて!!」
 「聞くからとりあえず落ち着いて。てか、授業サボらせたんだから、侘びとして昼奢れ」
 「A定でも、B定でも奢らせて頂きます!」
 がばっと机に額を擦り付けて簡易土下座。友人の冷たい視線が旋毛に刺さる。



 「で、何があったの、?」
 「あのね、すっごく良い夢見たの」
 言った瞬間、友人は席を立つ。
 「何処行くのさ」
 「授業。今から行けばギリギリ間に合うでしょ」
 「ちょちょ、待っててばー!!」
 授業へ行こうとする友人の腰に追いすがる私。プチ金色夜叉。
 「そんなアホな話に付き合ってらんないわよ!」
 「いやああ!私を置き去りにしないでえ!!」




 十数分の格闘の後、授業に行く事を諦めた友人が漸く私の話を聞いてくれるモードに入った。
 片手にはお気に入りの紅茶、二人の間には幾つかのお菓子。
 私は付き合いの良い友人に笑いかけた。



 「で、何があったの?」
 「夢の中で筧君に会ったの!」



 瞬間友人の視線が可哀想なものを見る目になった。
 わお、デジャヴ。



 「
 「うん」
 「あんたが漫画、特にアイシールド好きで、筧君が好きだったのも知ってる」
 「うん」
 「結構ラブラブだった彼氏と別れたのも知ってる」
 「其処までラブラブじゃなかったけどなぁ……」
 「でもね!」



 友人は机を叩いて立ち上がった。
 凄い、演劇パフォーマンスみたい。



 「夢の中でそんな逃避しなくても……」
 「あはは。いや、でもすっごくリアルだったんだよ。普通に、こうやって話してた」
 透明なガラス越しだったけど、あの瞬間は現実の様だった。
 目が覚めたらいつもの私の部屋で、窓の向こうはベランダだったけれど。
 「?」
 「一回だけ、でも凄く嬉しかったから、誰かに言いたかったの」
 笑って言うと、彼女は苦笑して頭を撫でてくれた。
 「良かったね」
 「うん!」
 あのひと時、確かに私は幸せだったんだ。












 「でもまさか、今日も出会う事になるとは思って無かったよ」
 「……俺もだよ」
 幸せな気分のまま少し早めに就寝すると、また夢の中で目が覚めて例の場所に居た。
 向こう側には疲れた顔の筧君。うん、ごめんなさい。
 ガラスの傍に座ると、筧君も同じようにして座った。
 ガラス一枚分の距離、顔見知りにレベルアップしたからか、凄く近く感じる。



 「一体この現象は何なんだろうな」
 「私の願い事がまだ続いてるって事かな」
 「かもな」
 筧君が呆れた様に答える。
 彼は嫌かもしれないけど、私は凄く嬉しい。
 憧れの人が近くにいるんだから。
 決して恋ではないけれど、とてもとても、嬉しい。



 「さんって言ったっけ」
 「うん」
 「アンタ、こんなんで楽しいのか?」
 「楽しいって言うか……嬉しい、かな」
 首を傾げる筧君に笑いかける。
 「上手に言えないけど、好きだった有名人と友達になれた、みたいな。筧君にしてみたらあんまり気分良くないかもしれないけど」
 きょとんとした表情の筧君に、私はもう一度笑った。






 凄く凄く幸せなの。
 絶対に交わらない私の道と貴方の道が今だけ交差してるんだから。









 #2 妄想なんて生易しいモノじゃない
 (これは現実。少なくとも私の中では完璧なリアル)