こうして出会う三度目の夜。ぱちりと目を覚ますと、同じように目を覚ました筧君と目が合った。



 「こんばんは」
 「こんばんは」



 夜。眠った筈の私達は、夢の中でこうして出会う。二人きりの世界、二人だけの空間。





 いつもの位置に座って、筧君を見上げる。
 「3回目だね!」
 「ああ、流石にこの数だと偶然でも夢でも無いな。……っと、夢ってのは正しいのか」
 「うん。此処は夢の中だから、多分」
 曖昧にしか返事が出来ないけれど、多分此処は夢の中なんだろう。
 普通の夢とはかなり違うけれど、夢の中でこれは夢だと認識している夢。だけど私は其れで居ながらこの状況を現実だと感じている。
 痛みは感じなくてもこれはきっと現実。



 「そういや筧君もしかして、今日ちょっと早い?」
 私は筧君に会えるのを楽しみに、早めの就寝を心がけている。今なら小学生ともはれるくらいの早さだ。
 だけど筧君は私が眠るのよりいつも遅い。実際此処には二人が眠っている時しか来れないから、この事実は本人から聞いて知った事だけど。今日は何となく、いつもより時間が長く感じる。
 筧君は苦笑いして、「ああ」と頷いた。
 「今大会中だから」
 「えーと、東京大会?」
 「ああ」
 記憶を頼りに思い出して、壁にかかっているカレンダーを見た。
 秋、そうか。アメフトは夏じゃなくて、秋に大会があるんだっけ。
 「明日が二回戦なんだ。練習が少し長引いたからな、疲れてそのまま」
 「へー、何処と対戦するの?」
 「賊学カメレオンズ。って言って解るか?……ああ、アンタは解るんだっけ」
 言われた名前を頼りに記憶を辿る。
 筧君の視線がこっちを向いているのを感じながら、ずるずるとアイシールドのストーリーを思い出す。
 だけど何故か断片的にしか思い出せない。
 起きている時は完璧に覚えているのに。そう言えば、初めて筧君と会った時もこんな風に。彼の顔を忘れるなんて事無かったのに。
 「……名前は覚えてるんだけど、何でだろ。ストーリーが思い出せない」
 ぐりぐりと頭を刺激しても出てくるのは、『見覚えがある気がするキャラ』の顔だけ。
 賊学と対戦した筧君達がどうなるか、とか。勝つのか負けるのか、そう言う未来の事がわからない。
 「おかしいな、私何回も読んでるから覚えてるのに」
 「まあ、別に気にする事じゃねえよ。其れに今からの事ペラペラ言われちまったら、こっちが困る」
 筧君はそう言って笑った。
 確かにそうかもしれない。「次の試合貴方はこうなります」とか言われたって信じられない。
 「勝つ」って言われたら嬉しいけど浮き足だっちゃいそうだし(筧君に限って其れは無いか)、「負ける」って言われたら腹が立つ。





 其れが本当に訪れる未来だとしても。





 「ん、じゃあ私は忘れたままで良いんだ」
 「多分な」
 ちらりと筧君を見上げて、私は問い掛けた。
 「ね、筧君は次の試合勝てると思う?」
 「勝つ」
 「お、自信たっぷり!」
 照れた様に鼻の頭をかきながら、筧君は「違う」と言う。
 「可能性はやってみなきゃわからない。今はこっちが優勢でもひっくり返される可能性だってある」
 私は頷いて筧君の言葉に耳を傾けた。
 「だから全力で戦う」
 凛と背筋を伸ばしてそう告げた筧君はやっぱり格好良かった。
 真っ直ぐ前を見て歩いている。壁があったら壊すだけの力を持っている。
 だから私は筧君が好きなんだ。
 「初戦の時は水町が……あ、水町ってわかるか?」
 「えーと、金髪の、背が高くて……水が好き?」
 ウロ覚えの記憶を頼りに情報をかき集めて、話すと筧君は頷いた。
 「ああ、そいつ。そいつがさ俺達を秘密兵器扱いにしたいとか言って、途中までフルメンバーじゃなかったんだよ」
 「秘密兵器って……」
 「馬鹿だろ。それで苦戦してたら意味が無いってのに」
 「あはは……あー、でも夢があって良いよね」
 私の苦しいフォローに筧君が笑う。無理すんな、って言ってこつこつとガラスを叩いた。
 其れだけの事が嬉しくて、ガラスに身体を預けて私も笑った。










 他愛ない話が出来る幸せ。
 夢であり、夢じゃなく。確かに此処にある現実。









 #3 3度目の正直
 (この出会いはいつまで続くのだろうか、願わくば、願わくば)