レポート地獄から開放されて、漸く眠れると思った瞬間頭に過ぎったのは筧君の姿。また(まだ)会えるだろうか。いつまで会えるのだろうか。 終わりを予感しながら、私は倒れる様に眠りに落ちる。 落ちた先があの部屋である事を祈りながら。 「こんばんは」 願い空しく、目覚めた先はあの部屋では無かった。 何も無い暗闇の世界。ずっとこの場所に留まっていたら気が狂いそうになるような。音も色も光も無い。 今だけ、私と目の前に居る顔の見えない誰かの周りだけ仄かな明かりが照らしている。 「貴方、誰」 「僕?僕は、そうだな、君達が神と呼ぶ存在。だけど、厳密に言えば神ではない」 子供とも老人とも、男とも女ともわからない声。其れを私は声と認識しているけれど、きっと其れは声なんかじゃないんだろう。何故か其の時私はそう思った。 神の様な存在、ああ面倒くさい、神様は私の疑問にならなかった疑問等気にしたそぶりは無く、ゆったりとした声で続ける。 「、彼に会えて嬉しかった?」 突然名前を呼ばれても驚きは無い、記号の様に呼ばれた名前。私は神様の問いに大きく頷いた。 「とても。……流れ星への願いを叶えてくれたのは、貴方だったの?」 「うん。突然のお願いだったけど、解り易くて叶え易かったから。君たち人間の願いは複雑で叶え難い」 困っている気配を感じる。 きっと感じ方が違うんだろう。私達と神様では。 「でも、ごめんね。これは永遠には叶えられない願いだよ」 神様は優しい声で告げた。 「このままでは君も彼も不必要に消耗してしまう。だから、明日で全てが終わり。君の誕生日が終わる時間に」 「私の誕生日が、終わる時間に、終わるんだね」 神様は頷いた。ゆったりと。 「引き止めてごめんね、。でもこれだけは伝えておかなければならなかったんだ」 す、と眠りに落ちた時と同じ様に意識が落ちて行く。ああ、次こそあの場所に行けるんだ。 行けるんだろうか。 「でも忘れないで。君の誕生日が終わる瞬間、君と彼の繋がりは全て消える」 優しい声は残酷な響きを伴って、私の心臓を抉った。 目が覚める。見慣れた部屋と、最近見慣れたガラスの壁。 向こう側で筧君が私を見下ろしていた。 「こんばんは」 突然目を覚ました私に驚いたのか、筧君は一瞬息を飲んでから「こんばんは」と答えてくれた。 神様の所に居たタイムラグだろうか、いつもは同時に目を覚ますのに今日は私は少し遅かったみたいだ。 『誕生日が終わる瞬間に全部終わる』 実感がわかないけれど、そう言う事なのだろう。 最初から決められた期間内の出来事だったのだ、私が知らなかっただけで。 「昨日は、どうしてたんだ?」 唐突に話しかけられ、一瞬対応が遅れる。 「あ、あー…実はパソコンが壊れちゃって。レポートとか諸々の資料のまとめしてたら貫徹。今日マジ眠かったよー」 「レポートって、ああ、そっか。さん年上なんだよな。忘れてた」 「其れは私が若く見られていると言う事なのか、子供っぽいと言う事なのか」 「さあ」 はぐらかされたが、筧君の笑みを見る限り後者で間違いないだろう。 畜生、わかってたけど、悔しい。 もそもそと定位置に移動して座ると、筧君もいつもの場所に座った。 残り僅かな時間、少しでも近くにと思ってガラスに身体を預ける。其の動作に筧君は目を細めて、其れから少し首をかしげた。 「何かあったのか?」 言おうか言わざるか、少しだけ悩んで(躊躇って)結局話す事にした。 始まりは唐突だったけれど、終わりだけでも解っていた方が良いだろう。 彼とはきちんとお別れがしたかった。 「何も言わずに最後まで聞いてくれる?」 「ああ」 「あのね、実はね………」
#6 カウントダウンが始まった |