あれから幾日が経っただろうか。どんなに長い眠りの中でも、あの夢を見る事は無い。
 当然と言えば当然だ。


 あの夢は二度と見る事の叶わない夢なのだから。









 彼女の夢を見なくなって、数日後に行われた泥門戦。
 偽者だと罵ったアイシールドに抜かれて、俺達の戦いは終わった。
 先輩達とクリスマスボウルへ行く夢は叶わなかったけれど、俺達が全国制覇すると言う夢が潰えた訳ではない。
 部を卒業した先輩達の分も頑張るのだ、と残った部員全員が以前より更に厳しい練習に耐えていた。


 其の中で、先輩達と共に彼女の姿が過ぎる。
 最後の瞬間、硝子越しにキスをした。
 誕生日プレゼントに、と彼女は言ったがきっと彼女が言わなければ俺が言っていただろう。




 硝子越しだったけれど、確かにあの瞬間、俺は彼女に触れていた。




 親指で唇に触れる。
 女々しい自分の仕種に小さく笑った。







 「かけー、どうした?」
 俺の変化を目敏く見つけたらしい水町が問い掛けてくる。
 そう言えばあの日、こいつは俺になんて言ったんだったか。


 嗚呼、そうだ。俺が彼女に、さんに恋をしているんだろうと、言ったんだった。
 其の時は、そんな事無いと否定したけれど。






 首を傾げる水町に向かって俺は言う。






 「やっぱ、凄ぇよ、お前」
 「は?何々?何の事?」






 頭にクエスチョンマークを飛ばす水町に、俺は声を上げて笑った。
 水町の言う通りだったんだ。
 激しい動悸も無く、別れに涙さえ出なかったけれど。










 #8 あれはきっと恋だった
 (好きだったと今更言っても届かない。其れでもいつかこの思いを言葉に出来たら)
さん、俺は貴方が好きでした。そして多分、今も)