軋んだ音を立てて屋上の扉が開く。全開になったと同時に心地良い風が吹き込んで来た。 
 高揚する気分のまま扉を抜けようとして、またいつもの様に頭をぶつける。 
 「いてっ」 
 いつもの様に頭をぶつけたけど、今回はいつもより良い音がした。 
 気のせいじゃなく、音が頭の中でわんわんと反響している。 
 ぶつけた額をさすっていると、どこからか押し殺した様な笑い声が聞こえてきた。 
 辺りを見渡して、屋上の隅に笑い声の主を見つけた。 
 「お―」 
 声をかけようとした瞬間、小さな指が唇に当てられる。唇だけ動かして静かに、と告げられた。 
 数回瞬きして、俺は漸く其の理由に思い当たる。 
 彼女の膝に頭が乗っている。其処から伸びる大柄な身体。 
 膝枕だ。何故か感動してしまう。 
 出来る限り静かに近寄ると、にこっと微笑まれた。 
 「凄い音したけど、大丈夫?」 
 小首を傾げて問いかけられ、俺も釣られて首を傾ける。 
 「ンハッ、へーき。俺、丈夫だから」 
 「でもちょっと赤くなってるね」 
 小さな手が額をさする。触られた瞬間微かに痛みが走ったけど、それ以上に其の感触が気持ち良くて目を細めた。 
 猫だったらきっとごろごろ喉を鳴らしている。 
 其れに気づいたのか、彼女は笑って「痛いの痛いのとんでいけー」と優しく撫でてくれた。 
 
 
 「なあ、何してるの?」 
 「膝枕、かな。私はコレ渡しに来ただけなんだけどね、気がついたらこんな事に」 
 これ、と彼女は小さな包みを掲げた。 
 アイツの目と同じ色のリボンがかけられた小さな箱。 
 今渡しに来たという事は放課後のパーティーには参加しないつもりなんだろうな、と思う。聞けば答えは多分「部員じゃないから」だ。 
 誰も気にしないのに、と言うより、彼女なら大歓迎するのに。誰よりも主役が。 
 「中身は何?」 
 「内緒」 
 箱をそっと横に置いて笑う。 
 俺は曖昧に笑ってふうん、と告げた。 
 特別興味があったわけじゃないけど、内緒にされると気になって来る。後で見せてもらおう。 
 
 
 俺と彼女の間を風が吹き抜ける。彼女の膝で寝てる奴の髪がさらさらと揺れた。 
 額にかかった髪を極自然な動作で彼女が払って、其の感触故か寄せられた眉間の皺が緩む。 
 「良いな」 
 「へ?」 
 気づけばそんな言葉が口をついて出た。 
 良いな、羨ましいな。2人が。 
 「何でもない!」 
 言って勢い良く立ち上がる。小さな彼女がますます小さく見えた。 
 彼女は其の逆の気分を味わっているだろう。 
 「行くの?」 
 「ん」 
 にかっと笑えば彼女も笑う。 
 来た時と同じ様に音を立てない様に立ち去って、扉の前で一回振り返った。 
 彼女はまだ俺を見てて、目が会うと笑って手を振ってくれた。 
 其れに振り返して屋上を後にする。 
 
 
 
 
 良いな、羨ましいな。 
 あの優しい空気、柔らかい温度。 
 俺も欲しい、でも多分まだ手に入らない。 
 でも幸せのおすそ分け、して貰えたのが嬉しかった。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 感染する幸福の温度 
 (でも悔しかったから、片割れは放課後にからかってやろう。ハッピーバースデイのついでにでも)
  
 
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