ラ ン ニ ン グ ハ イ 

 第二の自宅とも呼べるスーの部屋でごろりと寝転がる。
 何処もかしこも綺麗な部屋だから、床に転がっても汚れない。しかも部屋自体が広いから大の字になっても物にぶつからない。
 最高だ。
 ついでに寝室から勝手に拝借しておいたシーツに包まってみる。ごろごろ転がってみる。良きかな。



 「、そんな所で何してるの?」
 呆れた声が降って来るのと同時に、呆れた表情のスーが俺を見下ろしていた。手には俺のマグカップと奴のカップ。香りから今日は珈琲だろうと推測。
 「さんきゅ」
 蓑虫状態だったシーツから抜け出してカップを受け取り、一口。うん、美味い。
 「で、何してたの?」
 「日当たり良かったからひなたぼっこ。昼寝も良いかなーと思ってたとこ」

 部屋は広く清潔で、日当たり良好。全く、羨ましい部屋に住んでやがる。

 「成る程。まあ、今日は天気が良いからね。其の気持ち分かるよ」
 ふむ、と頷いてスーが笑った。珍しく俺の行動が注意されない。
 機嫌が良いのか、はたまたもう注意する事自体諦めたのか。
 「僕も寝ようかな」
 「珍しいな、お前が昼寝か?」
 「僕だって休みをだらだら過ごしたりするさ。こんなに気持ちの良い天気だしね」
 笑うスーに俺はどう言ったものかと少し思案する。良い天気だと言うなら出かければ良い、と思うが。正直この日当たりの良さは凶器だ。
 問答無用で此処に座った人間を眠りの世界へ誘ってしまう。
 「其れになら寝首をかかれる心配もないし」
 「お前普段どんだけ殺伐とした生活送ってんだよ!」
 冗談なのか本気なのか判断し辛い言葉を呟いて、スーは大きな欠伸をした。
 其の無防備な表情は、奴の顔をいつもより幼く見せた。決して若くでは無く、幼くなる。
 餓鬼っぽい表情を見るともなしに見ていると、奴はふむと何か考え事を始めた。
 一度空を見上げて考えが固まったのか、珈琲を一気に飲み干すと言うらしくない飲み方をしたかと思えば、突然俺の横にしゃがんだ。
 すっごく嫌な予感。
 「何だよ」
 「、もうちょっと向こうに寄って」
 「おい、此処は俺の場所だぞ!」
 「はいはい」
 先住民として陣地の権利を主張してみるも、悲しいかな圧倒的な筋力差によりころころと転がされてしまった。
 珈琲が零れないように注意すればするほど其の隙を突かれて転がされる。
 俺は今虐げられた先住民の気持ちを理解した。
 「卑怯者!」
 「何とでも」
 スーは笑いながら強引に空けたスペースに寝転がった。横幅は無いが、縦が平均以上だから寝転がるだけでもかなりの場所が取られてしまう。


 「ああ、確かに気持ち良いね、此処」
 目を閉じて、心地よさそうにスーが笑う。猫の様な仕種に釣られて俺も笑った。
 「だろ?」と調子に乗って言えば笑い声が返って来た。

 「少し眠いから、此処で昼寝でもしようかな」
 思わぬ言葉に過去の悪夢が蘇る。
 「ばっ、お前寝るならベッド行けよ!お前、寝相悪いから隣で寝たくねえ!」
 「ほど酷くないよ」
 過去こいつの所為で俺がどれだけの被害にあった事か。一度なんか急所を蹴られ掛けた。洒落にならないぞ、A・Tやってるやつの蹴りって。
 何とか起こそうと躍起になるものの、其の全てを無視し完全に寝る体勢に入ったスーに俺は大きな溜息を吐いた。
 もう此処まで来たら何をしても無駄だ。残念だが諦めるしかない。
 もう一度溜息を吐き、少し冷めて飲み易くなった珈琲を口にする。

 カップの中の珈琲が半分以上減った頃、隣から静かな寝息が聞こえて来た。子供みたいに無防備であどけない表情で眠るスーは、どう見ても凄い奴には見えない。
 「これで王様って言うんだからなあ」
 世の中って不思議、と呟くが返って来るのは寝息のみ。
 正直俺は『王』が何なのか、ライダーにとってどう言う存在なのかさっぱり分かっていない。分かっていないが、簡単に辿り着ける場所ではないとだけ理解できる。
 其の王の一人であるスーと、王どころかA・Tに興味すらない俺が何で悪友をやってるんだか。
 多分これ、A・T界の七不思議とかに入るんじゃないか?
 存外努力家な男の寝顔を見下ろして、今まで何度も考えては面倒くさくなり途中で放り投げた問いを、再度自分に問いかける。
 まあ、幾ら考えた所で明確な答えなんて出ないだろう。
 唯俺が俺で、スーがスーだったから何となく居心地が良かった。其れで良い。


 カップに残った珈琲を一気に飲み干して、俺も其の場に横になる。


 日当たり良好。絶好の昼寝日和だ。
 幸せそうに眠るスーの横で、思ったより早く訪れた眠りの波に従い、俺も瞼を閉じた。










  いつもとおなじ が こんなにたいせつ
 (本格的に眠りに落ちる前に、スーの腕とか脚とかが飛んで来ませんように)