ラ ン ニ ン グ ハ イ 

 真夜中、眠れぬ俺の携帯に連絡が来た。
 最近縁があって親しく付き合い始めた年下の友人の名前に、ここ数日拭い切れなかった予感が増徴する。



 「もしもし」



 電話越しに告げられた言葉は予想通りで、涙も出なかった。





















 沢山のライダーに紛れて、場違いな一般人がスクリーンを見上げる。其処には見慣れた奴の顔が映し出されていた。
 仕方が無いなと、まるで子供のちょっとした悪戯を許容する様に告げられる死の予感。緊迫した (死を悼む様な) 空気の中でさえ、あいつは矢張りあいつだった。
 いつもの顔でいつもの口調で自分勝手に話を進めて他人を巻き込む。
 自らの後継に願いを託してあっさりと、其れでいてすっきりとした顔でいなくなる。
 そんな奴の言葉に鼓舞されたのか何かに気付いたのか、南が嬉しそうな表情であいつを見上げていた。
 其れを見て漸くあいつが良い事を行ったんだと気付いた。
 何でだろう、あいつの顔は見えているのに言葉が頭に入ってこない。聞こえている筈なのに。
 とんとん、とこめかみを叩いても矢張り症状は変わらなかった。




 南を中心に盛り上がるライダー達、其の中で1人俺だけが浮いていた。
 正直な話、俺は痛いのは嫌いだし、殴る蹴るの喧嘩なんて最悪だと思う。其れが行き過ぎて誰かが――近しい人が傷付いて平静でなんていられない。
 俺はロボットでもライダーでもないから、特にそう思うんだろう。
 出来るなら今此処で、塔だかレガリアだかをくだらないと吐き捨ててやりたかった。盛り上がる連中を罵ってやりたかった。
 声さえ出たなら俺は直ぐにでもそうしていただろう。
 残念な事に今の俺は現状に頭が着いて行かず、黙ってスクリーンを見上げるばかり。歓声を聞きながら馬鹿みたいにじっとスクリーンを見上げる事しか出来なかった。
 瞬きを繰り返し、まるでコマ送りの様にスクリーンの中のあいつを見上げる。
 其の中で不自然な間があって、あいつの唇がゆっくりと動いた。
 音は、多分無かった。唇だけが動いている。ゆっくりと同じ言葉を繰り返し。
 2、いや、3回。



 1回目は首をかしげた、2回目で俺の名前に気付いた、3回目で、謝罪に気付いた。




 「、ごめんね」

 口に出して呟く。あんなに出なかった声がこんな時だけあっさりと出た。
 声にした瞬間、堰きとめられていた何かがこみ上げてきて、俺は口を押さえて部屋を飛び出した。







 好き勝手に盛り上がっている連中はきっと気付かなかっただろう。
 走って走って、誰もいない1番奥の教室で俺は叫んだ。
 タイミング良く上空を通り抜けた飛行機の音にかき消された、誰にも聞こえなかっただろう泣き声。



 涙が溢れて止まらないのがムカつく、あいつに泣かされているのがムカつく、あいつがあっさり死を受け入れたのがムカつく。




 「っスー!!ざけんな!死んだなんっ、なんて、許さないからな!!お前が言ったんだっ、お、俺に、A・Tおし、教えるって!」




 絶対にくだらないなんて言わないから。
 お前が全身で護った奴らを馬鹿にしないから。
 俺に出来る事なら何でもするから。
 だから、頼むから、カミサマ。






 「あいつを、たすけて」






 俺の大切な親友なんです。










  もしもし、まだ 繋がってますか?
 (カミサマカミサマ、お願いします。あいつを助けて、彼らを助けて、お願いします)