きらきらきらきら。
 可愛い可愛い、僕の大事な。










 「綺麗だなあ」
 「はい?」
 何か言いましたか、近くに立っていた男が振り返って尋ねる。僕は其れに目を向けて、何でも無いと首を振った。
 今、階下では彼らが無邪気に戯れている。
 驚くほど無邪気に。きっと今の彼らにはジェネシスも、王も、玉璽の事も関係ないのだろう。
 ただ、走る事が楽しくて。
 昨日は出来なかった技が今日出来ていた事が嬉しくて。
 初心者故か、幼さ故か、彼らは純粋にA・Tを楽しんでいる。
 その姿が凄く眩しくて、凄く切なくて、凄く嬉しい。
 




 彼らはいつまでその眩しい姿を僕に見せていてくれるだろうか。
 彼らはいつ、この世界の裏側に気付くだろうか。



 「人生は思った通りに進まないね」
 「先刻から何だと言うんだ、貴方は」
 先程より近寄ってきた男が僕の独り言に答える。
 今度は其れに返事を返さない。
 僕は独り言を言っているだけ、其れに答えるのは彼の勝手。
 でも、僕は独り言を小声でなんて言わない。 (ずるいって分かっている)
 存外付き合いの良い彼は、きっと僕の独り言に答えるだろうと知っていて、僕は独り言を呟く。


 「綺麗過ぎるのがいけないんだよね、きっと」
 「………」
 隣で大袈裟な溜息が聞こえた。
 其れにひっそり笑いを零して、彼の姿を目で追う。
 きらきらきらきら。まるでお日様みたい。
 日の光を浴びて輝くから、彼はもしかしたら星か月かもしれない。
 暗闇の中で1人輝いているから、闇の中にいる僕に見付かってしまう。
 けれど彼は自分が輝いている事を知らなくて、焦がれる僕に気付く事も無い。
 其れを知りながら僕は彼の灯りを求めて、彼に向かって飛び続ける。
 まるで、虫の様に。
 「愚かにも程がある」



 汚らわしい虫の手が届くはずが無いからあんなに綺麗なのに。





 「先程から貴方が何を言いたいのかわかりかねますが」
 隣で彼が溜息を吐きながら言葉を紡ぐ。
 「欲しいと感じたなら、思ってばかりいないでさっさと行動したらいかがですか」
 いい加減鬱陶しいんですよ。
 吐き棄てられた言葉に僕は苦笑して、其処で漸く彼を見る。
 眼鏡のブリッジを神経質そうに押さえ、眉間に皺を作って僕を見下ろしていた。

 「本当に、そうだよね」
 「全くです」


 「だけど、僕は綺麗な彼を見ているのが好きだから。手を出す気は無いんだよ」
 にっこり笑ってそう告げれば、彼は心底嫌そうに顔を歪めた。










 きらきらきらきら、いつも輝いている、まるでお月様みたいな子。
 僕の大事な大事な宝物。
 一体君は、いつこの世界の闇に気付くんだろう。
 気付いた時も君は輝いているのだろうか。
 其れとも君は其の輝きを失うのだろうか
 もしそうなら、僕は、其の時の君に何を思うだろうか。
 けれど同時にこうも思う。
 彼は絶望の淵から這い上がろうと、足掻く時ほど眩く輝くから、きっと闇に気付いた時でさえきっときらきら輝いているのだろう、と。
 其の様を想像して、身体が歓喜に震えた。

 「ずっと綺麗でいて欲しいのに」
 「早く、彼が闇に気付けば良いのに」
 相反する思いが同じ強さで願いを呟いた。






 きらきら
 (同じ強さの均衡が崩れるのは、もう直ぐかもしれない)