僕が赤羽さんと出会ったのは、高校一年の秋大会の時。僕はアイシールド21が何なのか知らなくて其の名前を使っていて、赤羽さんは全て知った上で其の名前を背負っていた。
色々な違いが僕らにはあって、色々な出来事がたった一試合の中であった。
其れが切欠で、アメフトの事や、いつしかそれ以外の事も相談したり話したりする仲になり、何時の間にか恋人と言う関係になっていた。
最初は驚いたりとまどったり、どうしたら良いのかわからないでいた。
指が触れただけでも心臓がおかしくなっていたし、同じ部屋に2人きりなんて状況になったら卒倒しそうだった。
そんな落ち着きの無い日々を過ごして、漸く僕に余裕が出来てきたのは、出会ってからぐるりと季節が一周した後だった。
暇があれば訪れている赤羽さんの部屋でソファに座り、ぼんやりと昔の事を思い出した。
初めて会った日の事、試合した時の事、其の後個人的に色々相談にのってもらった事、告白された時の事、恋人になった時の事。
たった一年の事なのに、随分と密度の濃い一年だった気がする。
アメフト、と言う僕が僕でいられる場所を見つけたからかもしれないし。赤羽さんと出会えたからかもしれない。其の両方、が正解かもしれない。
でももっと違うかもしれないし、ああ、何か考えるのが面倒になって来た。うん、きっと全部なんだ。
一年体験した事、経験した事、きっと全部が、この一年の密度を濃くしている。
思い返してみればそうだろう。
中学の時の自分じゃ絶対に選ばなかった、アメフトなんて言う暴力的なスポーツを始めて、抜け出せないくらい深く嵌って。
其処で初めて仲間が出来た。頼れる、信頼できる仲間達。其れにクラスにも友達が出来た。皆が僕を認めてくれた。
凄く、嬉しかった。
そして出会った、赤羽さんと。
アメフトを通して大切な人と。
最初は変わった人だなって思って (ああ、其れは今も思ってるけど) 凄い人だと知った。
この人の傍に居て良いのかという思いと、この人の傍にいられるという幸せが同時に攻めてきて泣いてしまった事もあった。
どれもこれも懐かしい思い出。
「セナ君?」
いい香りのする紅茶を運んで来た赤羽さんが、不思議そうに僕を覗き込む。
長い指が僕の頬を撫でた。
「泣いているのかい?」
「泣いていますか、僕」
「……目から零れるのが涙じゃない、と言うのなら違うだろうけれど」
離れた赤羽さんの指先には水滴。其れをぺろりと舌で舐めて「塩辛い」と笑った。
其れにつられて僕も笑う。
「どうして泣いているんだい?」
「丁度一年だなって思って、思い返してたら涙が出てきちゃったんです」
「懐かしくて?」
「懐かしくて、嬉しくて」
赤羽さんは笑って僕を抱き締める。余りの優しさに胸の奥が切なくなった。
「其れでも君に泣かれると困ってしまうんだけど」
「ごめんなさい。でも、アメフトと、赤羽さんと出会えて良かったって思ったら」
「……フー。君にとって僕はアメフトの次、かい?」
大袈裟な溜息と共に子供みたいな文句が聞こえて来る。
存外子供っぽい赤羽さんに、僕は笑った。
「同列です。赤羽さんは一番だけど、アメフトが無かったら赤羽さんと出会えなかったから」
「……悔しいね」
「悔しいですか?」
「非常に」
抱き締められていた腕が少し緩んで、僕の腰で固定される。
強くは無い力だけど其れ以上緩む事は無く、柔らかな檻に囚われている様な気分。
心地良くて抜け出したくない檻の中。
「君と僕を繋いだのはアメフトだけど、君と僕が幸せになれるのはアメフトのおかげじゃない」
「そうですね。赤羽さんと出会って一年、凄く幸せでした」
「これからも、だよ」
くすくす笑う赤羽さんに頬を摺り寄せて、「本当に?」と問い掛ける。
当然そうなると解っていての問いかけ。本気で言っているわけじゃないのが赤羽さんにも解っているのだろう、まだ笑っていた。
「本当に」
「信じられません、って言ったらどうします?」
「そうだね……」
赤羽さんは目を瞬かせて、笑って小指を差し出した。
意図がわからず首を傾げると更に笑みが深まった。
「ゆびきり、なんてどうかな?」
子供っぽい提案に、数度瞬いて、僕は声を上げて笑った。
「素敵です!」
ゆびきりげんまん
(絡めた小指から温度と一緒に想いも伝わってしまえば良いのに。大好き大好き大好き)
((適当課題))
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