フェイントを2度混ぜた必殺の右フック、それを冷静に最小限の動きで躱わす。
驚愕に目を見開く敵の表情を横目で見ながら、体重を乗せた拳を奮う。
―――――殺(と)った。
久々の勝利に口角が上がる。だが、不意をつかれ避けられない筈のそれを敵はいとも簡単に体を滑らせて避けた。
「なっ!」
「まだまだ、修行が足りんわ!!」
刃物の様に鋭い足払いが閃き、身体が宙に浮く。岩にたたき付けられると思った次の瞬間、身体が回転した。
身に覚えのある感覚。そのまま俺は空を舞い。
「ちっくしょおぉおお!!!」
滝壺に落下した。
神龍寺アメフト部マネージャー対同じくアメフト部監督仙洞田寿人。現在の戦績、俺の358戦50勝300敗8引き分け(推測)
「ぜってぇ勝ってたのに…避けるかーアレ。あの爺マジで老人かっつーの!」
ぶつぶつ文句を言いながら溜まった洗濯物を洗濯機に放り込んで行く。
色物が少ないのは有り難いけど。あ!誰だどさくさに紛れて胴着入れたやつ!晒すぞ!!
力任せに洗濯機のスイッチを入れる。ガキッとか嫌な音がしたけど聞かない振り。
「ー」
「さーん」
ガラガラ回る洗濯機を見ながら次の戦の事を考えていたら、後ろから名前を呼ばれた。
振り向くと特徴的な水色の髪とツンツン逆立った黒髪。
「なんだ、一休にゴクウか。どしたー洗い物か?」
二人はひょこひょこと近くまで寄って来ると笑って首を振った。
「いや、別件」
「さん、胴着見てませんか?間違えてどっかに紛れこんじゃったみたいで」
「胴着?」
俺はさっきよけて置いた胴着を引っ張り出す。
「これか?」
「それだ!」
「それっス!」
二人が声を揃えて俺の手にある胴着を指差した。
若干汚れた胴着。どっちかの物だったのかと思い手渡すと、ゴクウも一休も大袈裟な溜息をついた。心底安堵したと言わんばかりのそれに目を瞬かせる。
「そんな大事なものだったか?」
「いや、大事って言うか……」
「阿含さんのなんスよ、これ」
「はあ?!」
思いがけない名前に間抜けな声を上げると、二人は困ったように笑った。
何がどうなって、アイツの名前が出てくるんだ?思い返してみるがアイツは今日もサボっていた。部活だけじゃなくて、学校ごとだ。
どう考えてもアイツが此処に来た形跡は無くて、胴着を今日忘れていくなんて………今日?
「なあ、其れ何時からあったんだよ」
「昨日からっス」
「は昨日までサボりだったから知らねえだろうけど、昨日は阿含ちょっと顔出したんだよ」
「んで、そん時に置いてったのか」
二人は同時に大きく頷いた。
何て野郎だ。サボりまくった上に洗濯物だけ放置していくなんて!
そう言うと二人の視線が若干痛いものになった。うん、ごめんなさい。
「しっかし、どうすんだ其れ。俺洗濯すんの嫌だぜーメンドイ」
「雲水さんが持ち帰るとか言ってましたけどね」
「えー、雲水ってば阿含の尻拭いしすぎじゃね?偶には阿含にも灸を据えてやろうぜ」
「阿含に、灸を、据えるぅ?」
ゴクウが凄い顔をして俺の台詞を反芻する。一休も無言だが似た様な表情で此方を見ていた。
何だよ、だって人様に迷惑かけるのはいけない事だろ。
いや、俺は別。だって正直俺はいてもいなくても良い感じだから。アメフト部は俺が居ても良いけど、居なくても周っていく部だから。
だから俺は泣く泣く此処を離れて自宅でゲーム三昧するんだよ。やらせろよ、マジやってないソフトたまってるんだよ。
「具体的には何をするんスか」
「えー、胴着に『最強のツンデレ☆』って油性マジックで書くとか」
「殺されるぞお前!!」
「大丈夫、其の横にそっと一休の名前書いとくから俺は死なない」
「俺が死ぬっすぅぅ!!!!」
一休の必死の形相が面白くて、阿含の胴着をひらひらさせながら俺とゴクウは大声で笑った。
其の声を聞きつけて雲水が怒鳴り込んでくるまでの数分間、俺達は腹を抱えて笑っていた。
so brilliant
(こんな毎日なら偶には部活に顔を出しても良いかもしれない)
((適当課題))
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