ラ ン ニ ン グ ハ イ
振り返ると、全身から「意味が分からない」と言うオーラを発している男が立っていた。
「結局君は何の用だったのかな」
男は真っ直ぐ俺を見据えて言う。
俺も真っ直ぐ男に向かい合って立った。
「君の様子からすると僕が関わってるみたいだけど、残念ながら僕は君を知らない。理由を聞く権利くらい僕にはあるだろう?」
男の言い分は理解できた。
見知らぬ男が突然現れ、意味不明な問い掛けをして勝手に納得して去って行こうとしたら、そりゃあ気になるだろう。
唯、此方としてはあまりにも情けない理由だから人に、しかも張本人に話すのは嫌なんだけどな。
「あー、っと」
「もしかして、A・T関係?」
男の目が細められる。
探る様に鋭い視線に怯えるより、発言の突飛さに驚いた。
「エアトレックぅう?」
何で突然そんな話になってるんだ。
俺の声に男はぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「違うの?」
「違えよ。てか、何でそんなとこに飛ぶのかが分からん。俺はただ、」
「ただ?」
首を傾げる仕種がやけに子供じみていて、見た目とのギャップについ口が滑った。
「俺の彼女があんたに惚れたって言うから、見学しに来たんだよ。……っ!」
「は?」
しまった、と口を押さえるが遅い。
ええい、此処まで来たら何処まで行っても一緒だろう。
「だから、俺の……元カノが、あんたが好きだから別れてくれって言い出して、どんなんだよって気になったから見に来たんだよ!しかも見に来たら矢鱈良い男で、勝てるわけねえよって納得して帰る所だったんだよ、畜生!」
吐き捨て様に一息で言うと、男はぽかんと間抜けな表情で俺を凝視し、弾けたように笑い出した。
呆れられるか笑われるだろうと思っていたが、いざ目の前でやられると恥ずかしいし腹が立つ。
一刻も早く此処を立ち去りたい。
唯一の救いは周囲に人が少ない事だろう。男が大笑いしても、奇妙な2人組がいてもさほど目立ちはしない。
「――っ、いいかげん、笑うの止めろよ!」
「あはっ、ははは、ごめっ」
笑いを止めようとしているのは分かるが、どうにもツボに入ったらしく男は只管身体を震わせている。
帰りたい帰りたい帰りたい。マジで帰りたい。
暫く男は笑い続けて、漸く笑いを収めた。
それでも微かに肩は震えていたし、大笑いの名残で涙ぐんでいたし、後俺を見る目が矢鱈生温くなってて腹が立った。
どうしよう、凄く殴りたい。
「あー、笑った笑った。こんなに笑ったのは久しぶりだよ」
「そうかよ、そいつは良かったな」
けっと吐き捨てるが、それでも男は楽しそうににこにこ笑っていた。
何故だろう、其の瞬間突然過去の出来事を思い出していた。
実家の近くに大型犬を飼っている家があって、あまりにも大きかったからビビっていたんだが、恐る恐る近付いて遊んでいたら何故か懐かれていた。
おかしい。デジャヴだ。
「うーん、僕の所為と言って良いかわからないけど、まあ多分僕の所為なんだよね」
「あー、そうかもなー」
其れについては違うと分かっていたが、男のフォローするのも嫌で適当に返事をする。
今日たった十数分で一生分の屈辱を受けた気がする。
男は俺の様子を見て、少し首を傾げて考え込んでいるようだった。
何を考えているのか分からないが、もうどうでも良い。兎に角家に帰りたい。
「俺そろそろ」
「じゃあ、お詫びに僕が君のカットするって言うのはどうかな」
「は?」
おかしな申し出に俺は問い返した。
カット?誰が?誰の?
「僕が君のヘアカット。勿論無料で、カラーリング興味があるならそっちもサービスもするよ」
「いや、何でそんな話に」
「僕の所為で嫌な想いさせちゃっただろう?だから、お詫び」
「はあ……」
にこにこと笑う男に、俺は溜息とも返事ともつかない声を出す。
やけに楽しそうだが、この男は一体何をしたいのだろうか。
俺は大きく、今度こそ溜息をついて踵を返す。後ろで男の困惑した声が聞こえた。
だから一度だけ振り返って、言う。
「気が向いたら」
俺の言葉に、男はやけに嬉しそうな顔をした。
「結局君は何の用だったのかな」
男は真っ直ぐ俺を見据えて言う。
俺も真っ直ぐ男に向かい合って立った。
「君の様子からすると僕が関わってるみたいだけど、残念ながら僕は君を知らない。理由を聞く権利くらい僕にはあるだろう?」
男の言い分は理解できた。
見知らぬ男が突然現れ、意味不明な問い掛けをして勝手に納得して去って行こうとしたら、そりゃあ気になるだろう。
唯、此方としてはあまりにも情けない理由だから人に、しかも張本人に話すのは嫌なんだけどな。
「あー、っと」
「もしかして、A・T関係?」
男の目が細められる。
探る様に鋭い視線に怯えるより、発言の突飛さに驚いた。
「エアトレックぅう?」
何で突然そんな話になってるんだ。
俺の声に男はぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「違うの?」
「違えよ。てか、何でそんなとこに飛ぶのかが分からん。俺はただ、」
「ただ?」
首を傾げる仕種がやけに子供じみていて、見た目とのギャップについ口が滑った。
「俺の彼女があんたに惚れたって言うから、見学しに来たんだよ。……っ!」
「は?」
しまった、と口を押さえるが遅い。
ええい、此処まで来たら何処まで行っても一緒だろう。
「だから、俺の……元カノが、あんたが好きだから別れてくれって言い出して、どんなんだよって気になったから見に来たんだよ!しかも見に来たら矢鱈良い男で、勝てるわけねえよって納得して帰る所だったんだよ、畜生!」
吐き捨て様に一息で言うと、男はぽかんと間抜けな表情で俺を凝視し、弾けたように笑い出した。
呆れられるか笑われるだろうと思っていたが、いざ目の前でやられると恥ずかしいし腹が立つ。
一刻も早く此処を立ち去りたい。
唯一の救いは周囲に人が少ない事だろう。男が大笑いしても、奇妙な2人組がいてもさほど目立ちはしない。
「――っ、いいかげん、笑うの止めろよ!」
「あはっ、ははは、ごめっ」
笑いを止めようとしているのは分かるが、どうにもツボに入ったらしく男は只管身体を震わせている。
帰りたい帰りたい帰りたい。マジで帰りたい。
暫く男は笑い続けて、漸く笑いを収めた。
それでも微かに肩は震えていたし、大笑いの名残で涙ぐんでいたし、後俺を見る目が矢鱈生温くなってて腹が立った。
どうしよう、凄く殴りたい。
「あー、笑った笑った。こんなに笑ったのは久しぶりだよ」
「そうかよ、そいつは良かったな」
けっと吐き捨てるが、それでも男は楽しそうににこにこ笑っていた。
何故だろう、其の瞬間突然過去の出来事を思い出していた。
実家の近くに大型犬を飼っている家があって、あまりにも大きかったからビビっていたんだが、恐る恐る近付いて遊んでいたら何故か懐かれていた。
おかしい。デジャヴだ。
「うーん、僕の所為と言って良いかわからないけど、まあ多分僕の所為なんだよね」
「あー、そうかもなー」
其れについては違うと分かっていたが、男のフォローするのも嫌で適当に返事をする。
今日たった十数分で一生分の屈辱を受けた気がする。
男は俺の様子を見て、少し首を傾げて考え込んでいるようだった。
何を考えているのか分からないが、もうどうでも良い。兎に角家に帰りたい。
「俺そろそろ」
「じゃあ、お詫びに僕が君のカットするって言うのはどうかな」
「は?」
おかしな申し出に俺は問い返した。
カット?誰が?誰の?
「僕が君のヘアカット。勿論無料で、カラーリング興味があるならそっちもサービスもするよ」
「いや、何でそんな話に」
「僕の所為で嫌な想いさせちゃっただろう?だから、お詫び」
「はあ……」
にこにこと笑う男に、俺は溜息とも返事ともつかない声を出す。
やけに楽しそうだが、この男は一体何をしたいのだろうか。
俺は大きく、今度こそ溜息をついて踵を返す。後ろで男の困惑した声が聞こえた。
だから一度だけ振り返って、言う。
「気が向いたら」
俺の言葉に、男はやけに嬉しそうな顔をした。
「今」と繋がった場所
(何でこんなに懐かれたのか。一体何処にフラグがあった。困惑しながら辿る家路は、ちょっと不思議な気分だった)