ラ ン ニ ン グ ハ イ
「うげ……」
「いいかげん慣れたらどうだい?そんなにスピード出してる訳じゃ無いんだし」
「馬鹿野郎!アレでスピード出てないなら警察はいらねえ!」
ついでに遊園地にジェットコースターもいらねえ。
今日も今日とて自宅で寝ていた所を強制連行だ。
いつも思うが、鍵がかかっている部屋に何でこいつは入って来れるんだ?鍵開けのプロか?お巡りさーん、此処に犯罪者がいまーす。
「吐き気治まったなら行くよ。早く行かなきゃ良い場面見逃しちゃうからね」
「行くって、マジで?其処に?」
吐き気とは違う意味で俺は呻いた。
スーが進もうとした先には穴蔵と呼ぶのが相応しい場所。しかも驚くべき事に中から激しい罵声とか歓声とかが聞こえて来る。
おかしいな、始めてきた場所なのにデジャヴ。
「ほら」
進む所か後退りまで始めた俺に焦れたスーが腕を引く。進む先は恐怖の洞窟。ぎゃあ!おうちに帰して!
「や、いやいやいや!俺が行かなくてもお前だけ行きゃ良いだろ!」
「1人より同伴の方が良いんだよ」
「お前は何処のホストだ!」
いや、見た目的にはホストでもおかしくないけど!
必死の抵抗空しく、純粋な力比べに負けた俺は穴蔵の中へと連れて行かれた。
結果、赤い髪の恐ろしく目立つ男と中学ジャージを来た平凡な男が並んで立つ事に。すっげ、シュールな図。
「いつも思うけどさ、何でジャージなの?」
「ジャージって画期的なんだぞ。凄く動き易くて、楽」
「まあ運動着だしね」
「中学から愛用してるから、かなりくたびれてきて寝るのに最高」
「パジャマ買いなよ」
呆れたスーの声にべ、と舌を出して答える。子供っぽい行動にか俺の返事にか、奴は大袈裟な溜息を吐いた。失礼な奴だな、本当に。 ふい、とスーから顔を背けて辺りに視線を向けた。
穴蔵の中は驚く程拾い会場だった。太いパイプで繋がれた四角い、何だあれ。コンテナ?
まじまじと見慣れない会場を見渡す。かなり乱暴で粗野だが雰囲気自体はライブ会場に近い、とか思ってたら本当にライブが始まった。今回A・T関係ない?
―――――いや、まさかな。
おのぼりさんよろしく辺りを観察しながらスーの後ろについて歩いて行くと、速度を落としたスーが誰かに声をかけた。
「シムカ、鵺君」
スーが声をかけたのはピンクの長い髪を持った美少女と、小柄な黒い塊だった。……塊、人間だよな?
美少女はともかく、黒いマントに黒いフルフェイスメット。コンビニさえ確実に入店拒否される姿だ。
静かに振り向いた黒いのとは対照的に、美少女は鮮やかな色の髪を揺らしてにこりと笑った。
「スピット・ファイア」
振り向いた黒いのがスーの名を呼ぶ。どうやら知り合いらしい。って、知り合いじゃなったら声かけないよな、美少女はともかく、怪しいもんな黒い塊。
「お前も来てたのか」
メット越しのくぐもった声だけど、随分若い。
高校……いや、中学生くらいか。
「まあ、興味があったしね」
「ねえ、スピ君」
2人の会話を打ち切って美少女がスーに問いかける。視線だけが興味深げに俺に向けられていた。
「そっちの彼は誰?」
美少女の言葉に2人が俺を見る。いや、黒いのはメットでよく分からないが、多分見ているだろうと言う推測だ。
スーは笑って俺を紹介した。
「彼は見学。まだ初心者だから色々おかしな行動を取るだろうけど、気にしないであげて。――、シムカと鵺君だよ」
まだ、というか一生初心者だけどな。
訂正するのも面倒でハジメマシテと無難な挨拶を告げる。鵺と呼ばれた黒いのは「どうも」と興味無さげに返事をした。其の様子に俺はこっそりと安堵の息を吐いた。
矢鱈目立つ男の傍に居ると言うだけで、値踏みする様な無遠慮な視線に晒される事は珍しくないから、正直こう言う態度だと有難い。そして、俺の存在をバトル終了まで忘れていてくれると更に有難い。
しかし残念ながら、美少女の方はそうは行かなかった。俺の何がどうお気に召したのか、ふぅん、と探るような目付きで俺を見てくる。
「私はシムカ、宜しくね君」
「……ああ、ヨロシク」
通常、一般的男子の心理として、どう言う状況であれ美少女に見つめられると言うのは、非常に美味しいシチュエーションだと思われる。と、言う事は単純に俺が彼女を苦手に思っているのだろう。この訳の分からない嫌な感じが発生する理由は。
視線を避ける様にスーの影に移動すれば、鈴を転がした様な笑い声か聞こえてきた。
ぐえ。
しかし、美少女が俺に示した興味は大した物では無かったらしい。バトルが本格的に始まれば直ぐにそちらへと集中しだした。
俺の願いどおり、3人の意識は四角い箱の中で駆け回る人間達に固定される。
あの箱が、ステージなんだろう。殴って蹴って血を流す奴らの姿に眉を寄せる。声に聞き覚えがあった。あの夜見かけた中学生達だ。
いつしか1人倒れ、2人倒れ、俺が眉をしかめ吐き気を堪える間も隣では極普通に会話をし、周りは大袈裟に騒ぎ立てる。
ここに居る奴らにとっては、今目の前に繰り広げられている光景が当たり前なんだ。
ざわりと鳥肌が立った。
「あ、そう言えばまだ説明してなかったね」
突然隣の会話が途切れ、スーが俺を視界に入れた。吐き気がばれぬ様に淡々と「何を」と問い返す。連れて来た話なら、後で幾らでも聞いてやろう。長くても今回ばかりは我慢する心意気だこの野郎。
「あれの説明」
あれ、とスーが示したのは彼らが戦う箱だった。
「あれはキューブといって、このクラスでのバトル方式だよ」
「クラス?」
聞きなれない単語に首を傾げる。此処で話されるクラスが、文系理系だの1組2組だのでない事はわかるが。
「クラスって言うのは、そうだな。分かり易く言えばランクの事。特AからFまであって、最初はFからスタート。同じランクに3勝又は上のランクに1勝するとランクが上がるんだ。で、キューブはDランク、今勝っている方のチームベヒーモスが居るランクのバトル方式なんだよ」
「ふぅん」
どうでも良い事だが、とりあえずは理解できた。そう言う気持ちを込めてぞんざいに頷けば、スーの向こう側で黒いのが驚く気配が伝わって来た。
「お前、そんな事も知らないど素人を此処に連れて来たのか」
「大丈夫だよ、は丈夫だから」
簡単には死なないよ、スーはそういって笑った。俺もうんうん、と頷いて。はた、と気付く。
「いや、待てお前!死ぬ様な状況に陥るのか?!此処に居ると!!」
「可能性はゼロじゃないね、でも其れは何処に居ても同じことだよ、」
ふ、と遠い目をして芝居がかった口調でスーは答えた。
「俺はそう言う事が聞きたいんじゃなっつーの!!あー、もう!だからお前と一緒に来るのいやだったんだよ!!」
俺の心境を十分理解した上でからかってくるスーに腹が立つ。そして更に遊ばれていると理解した上で、奴の思い通りにしか行動出来ない自分に腹が立つ。
楽しそうに俺をからかうスーと、これ以上ないくらい思い切りからかわれている俺を見て、黒いのが大袈裟な溜息を吐いた。
「いいかげん慣れたらどうだい?そんなにスピード出してる訳じゃ無いんだし」
「馬鹿野郎!アレでスピード出てないなら警察はいらねえ!」
ついでに遊園地にジェットコースターもいらねえ。
今日も今日とて自宅で寝ていた所を強制連行だ。
いつも思うが、鍵がかかっている部屋に何でこいつは入って来れるんだ?鍵開けのプロか?お巡りさーん、此処に犯罪者がいまーす。
「吐き気治まったなら行くよ。早く行かなきゃ良い場面見逃しちゃうからね」
「行くって、マジで?其処に?」
吐き気とは違う意味で俺は呻いた。
スーが進もうとした先には穴蔵と呼ぶのが相応しい場所。しかも驚くべき事に中から激しい罵声とか歓声とかが聞こえて来る。
おかしいな、始めてきた場所なのにデジャヴ。
「ほら」
進む所か後退りまで始めた俺に焦れたスーが腕を引く。進む先は恐怖の洞窟。ぎゃあ!おうちに帰して!
「や、いやいやいや!俺が行かなくてもお前だけ行きゃ良いだろ!」
「1人より同伴の方が良いんだよ」
「お前は何処のホストだ!」
いや、見た目的にはホストでもおかしくないけど!
必死の抵抗空しく、純粋な力比べに負けた俺は穴蔵の中へと連れて行かれた。
結果、赤い髪の恐ろしく目立つ男と中学ジャージを来た平凡な男が並んで立つ事に。すっげ、シュールな図。
「いつも思うけどさ、何でジャージなの?」
「ジャージって画期的なんだぞ。凄く動き易くて、楽」
「まあ運動着だしね」
「中学から愛用してるから、かなりくたびれてきて寝るのに最高」
「パジャマ買いなよ」
呆れたスーの声にべ、と舌を出して答える。子供っぽい行動にか俺の返事にか、奴は大袈裟な溜息を吐いた。失礼な奴だな、本当に。 ふい、とスーから顔を背けて辺りに視線を向けた。
穴蔵の中は驚く程拾い会場だった。太いパイプで繋がれた四角い、何だあれ。コンテナ?
まじまじと見慣れない会場を見渡す。かなり乱暴で粗野だが雰囲気自体はライブ会場に近い、とか思ってたら本当にライブが始まった。今回A・T関係ない?
―――――いや、まさかな。
おのぼりさんよろしく辺りを観察しながらスーの後ろについて歩いて行くと、速度を落としたスーが誰かに声をかけた。
「シムカ、鵺君」
スーが声をかけたのはピンクの長い髪を持った美少女と、小柄な黒い塊だった。……塊、人間だよな?
美少女はともかく、黒いマントに黒いフルフェイスメット。コンビニさえ確実に入店拒否される姿だ。
静かに振り向いた黒いのとは対照的に、美少女は鮮やかな色の髪を揺らしてにこりと笑った。
「スピット・ファイア」
振り向いた黒いのがスーの名を呼ぶ。どうやら知り合いらしい。って、知り合いじゃなったら声かけないよな、美少女はともかく、怪しいもんな黒い塊。
「お前も来てたのか」
メット越しのくぐもった声だけど、随分若い。
高校……いや、中学生くらいか。
「まあ、興味があったしね」
「ねえ、スピ君」
2人の会話を打ち切って美少女がスーに問いかける。視線だけが興味深げに俺に向けられていた。
「そっちの彼は誰?」
美少女の言葉に2人が俺を見る。いや、黒いのはメットでよく分からないが、多分見ているだろうと言う推測だ。
スーは笑って俺を紹介した。
「彼は見学。まだ初心者だから色々おかしな行動を取るだろうけど、気にしないであげて。――、シムカと鵺君だよ」
まだ、というか一生初心者だけどな。
訂正するのも面倒でハジメマシテと無難な挨拶を告げる。鵺と呼ばれた黒いのは「どうも」と興味無さげに返事をした。其の様子に俺はこっそりと安堵の息を吐いた。
矢鱈目立つ男の傍に居ると言うだけで、値踏みする様な無遠慮な視線に晒される事は珍しくないから、正直こう言う態度だと有難い。そして、俺の存在をバトル終了まで忘れていてくれると更に有難い。
しかし残念ながら、美少女の方はそうは行かなかった。俺の何がどうお気に召したのか、ふぅん、と探るような目付きで俺を見てくる。
「私はシムカ、宜しくね君」
「……ああ、ヨロシク」
通常、一般的男子の心理として、どう言う状況であれ美少女に見つめられると言うのは、非常に美味しいシチュエーションだと思われる。と、言う事は単純に俺が彼女を苦手に思っているのだろう。この訳の分からない嫌な感じが発生する理由は。
視線を避ける様にスーの影に移動すれば、鈴を転がした様な笑い声か聞こえてきた。
ぐえ。
しかし、美少女が俺に示した興味は大した物では無かったらしい。バトルが本格的に始まれば直ぐにそちらへと集中しだした。
俺の願いどおり、3人の意識は四角い箱の中で駆け回る人間達に固定される。
あの箱が、ステージなんだろう。殴って蹴って血を流す奴らの姿に眉を寄せる。声に聞き覚えがあった。あの夜見かけた中学生達だ。
いつしか1人倒れ、2人倒れ、俺が眉をしかめ吐き気を堪える間も隣では極普通に会話をし、周りは大袈裟に騒ぎ立てる。
ここに居る奴らにとっては、今目の前に繰り広げられている光景が当たり前なんだ。
ざわりと鳥肌が立った。
「あ、そう言えばまだ説明してなかったね」
突然隣の会話が途切れ、スーが俺を視界に入れた。吐き気がばれぬ様に淡々と「何を」と問い返す。連れて来た話なら、後で幾らでも聞いてやろう。長くても今回ばかりは我慢する心意気だこの野郎。
「あれの説明」
あれ、とスーが示したのは彼らが戦う箱だった。
「あれはキューブといって、このクラスでのバトル方式だよ」
「クラス?」
聞きなれない単語に首を傾げる。此処で話されるクラスが、文系理系だの1組2組だのでない事はわかるが。
「クラスって言うのは、そうだな。分かり易く言えばランクの事。特AからFまであって、最初はFからスタート。同じランクに3勝又は上のランクに1勝するとランクが上がるんだ。で、キューブはDランク、今勝っている方のチームベヒーモスが居るランクのバトル方式なんだよ」
「ふぅん」
どうでも良い事だが、とりあえずは理解できた。そう言う気持ちを込めてぞんざいに頷けば、スーの向こう側で黒いのが驚く気配が伝わって来た。
「お前、そんな事も知らないど素人を此処に連れて来たのか」
「大丈夫だよ、は丈夫だから」
簡単には死なないよ、スーはそういって笑った。俺もうんうん、と頷いて。はた、と気付く。
「いや、待てお前!死ぬ様な状況に陥るのか?!此処に居ると!!」
「可能性はゼロじゃないね、でも其れは何処に居ても同じことだよ、」
ふ、と遠い目をして芝居がかった口調でスーは答えた。
「俺はそう言う事が聞きたいんじゃなっつーの!!あー、もう!だからお前と一緒に来るのいやだったんだよ!!」
俺の心境を十分理解した上でからかってくるスーに腹が立つ。そして更に遊ばれていると理解した上で、奴の思い通りにしか行動出来ない自分に腹が立つ。
楽しそうに俺をからかうスーと、これ以上ないくらい思い切りからかわれている俺を見て、黒いのが大袈裟な溜息を吐いた。